私の仕事について 

 私の表現について……………………門坂流

 流れる水や、燃える火や、風になびく稲穂などの流動する形を観ているのが好だった私の少年時代の、多くの美しい感覚的な記憶は、川とともにあります。  滋賀県の琵琶湖に流れ込む日野川の上流で、渓流が清流に変わるあたり……ちょうど日本昔にでてくる様な、山裾の村の川で、四季を通じて遊び過ごした事が、今の私の仕事にとって、最も大きな精神の宝になっています。

 単純に“視えるがままに描く”という行為を長時間続けていると、モチーフを視る眼の焦点が少しずれて,全体が混沌とした粒子の流れに溶け込みだし、表面の世界が全く異なった相貌を呈しはじめます。その流れをできるだけ忠実に手の運動と共鳴させるようにして、丸ペン、面相筆、ビュラン等、先端がシャープな道具で線に置き換えていくと、描いた線によってモチーフを視る眼はしだいに影響を受け,次の線につながり,少しずつずれた輪唱のような眼と手の動の一体感のうちに仕事が進められます。出来るだけ交差しないという原則によって,それぞれの線は画面上に等しい価値を与えられ,全体の同時的な運動に加わっていき、ある飽和状態で筆を止めます。

 制作中は可能な限りモチーフに対する観念を「無」にするように心をコントロールし、森羅万象の宇宙のリズムに眼と手を共鳴させ、見えるがままに描きます。

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